漆 史 雑 記

思いつくままに色々。あやしうこそものぐるほしけれ。

歴史の勉強は役に立つのか?

 私は歴史が好きだ。流行りの“△△女”・“△△ガール”という言い回しには違和感を覚えるので、“歴女”と自称することはないが、他人から「歴女だね!」と言われれば「ええ、まあ」と曖昧な返事をする。史学科を卒業しておいて「歴女」を否定するのも、おかしな話だからだ。かといって、“△△女”・“△△ガール”という言い回しに対する違和感について説明するのも、面倒である。

 歴史の勉強は役に立つのか? 暗記に苦しむ学生なら、誰でも一度は考えることだと思う。私自身、受験勉強で苦しんでいた時は「こんなの何の役に立つのよ!」と大好きなはずの教科書に、全ての怒りをぶつけていた。

 しかし史学科を卒業して数年が経った今、私は歴史を、必須の「教養」と捉えている。

 

昔は歴史が大嫌いだった

 私の時代、歴史というものは小学校六年生の社会で習うものであった。 当時、私は歴史というものが好きではなかった。むしろ、大嫌いだった。母に訊ねたことがある。「何故、昔のことを勉強しなくてはいけないの?」と。

 もしも、あの時。過去を知って過ちを繰り返さないためだとか、そんなことを大真面目に言われたのなら、私は歴史を好きになることは一生なかったかもしれない。母はどうしてそんな質問をするの、と不思議そうな顔をして、「だって面白いもの」と言った。

 母は歴史好きである。そして母方の祖父も歴史好きである。今思えば、血は争えず、私はなるべくして歴史好きになったようだ。祖父や母の持っている書籍を読み、ドラマを一緒に楽しんでいるうちに、私は歴史の勉強にのめりこんでいった。

 

進路

 中学に上がってすぐ、進路調査のプリントが配られた。恐ろしく気の早い話だが、中高一貫校だったので仕方ない。

 将来就きたい職業に関連した分野を選ぶのがセオリーだった。将来のことなど漠然としていてわからない。それでも、なんとなく抱いていた将来の夢に関連した学部を、友人たちは選んでいた。私が誰でも知っている有名大学の「歴史学科」とプリントに書き殴っても、誰も気にすることはなかった。

 しかし高校生にもなれば、進路選択は現実味を帯びてくる。将来を見据え模試の結果と睨めっこしながら自分の学力と向き合い、現実的に手の届きそうな大学、学部、学科を選んでいかなければならない。

 高校生になっても、私の志望は変わっていなかった。小説やNHKシルクロード特集の影響で東洋史に興味を持ち、「将来の職業は未定だが、とにかく専門的に歴史の勉強をしたい」と考えるようになっていた。歴史を学ぶ学生となり、自分の知的好奇心を満たすための「方法」を習得したかった。志望理由は突き詰めるとそこに行き着く。

 性格的に研究者には向いていないので、院に進んで研究を続けることはありえないと想定していた。社会や地歴の先生には恵まれていたが、教職という選択肢も一切なかった。就職したい分野は就活をする時に考える、だから好きなことをやらせてほしい。好きなことを勉強する大学生でいたい。私は自分の考えを担任と両親に伝えた。進路指導担当とは仲が悪かったので、一切相談しなかったが。

 担任は私の将来設計の甘さ、脆さに気付いていたはずだが、否定することはなかった。両親も、理解してくれた。私はつくづく環境に恵まれている。就職を想定しない進路の設定は少しばかり異色を放っていたが、「やりたいことをやりなさい」と、両親は私の背中を押してくれた。

 

歴史は役に立つ?

  大学時代、「歴史って就職に役に立たないよね」と他学科の人によく言われた。それを言うのは大体、就職のためになる進路を一生懸命選んだと思われる人たちだ。その人たちの選択はきっと正しいので、私は必ず「そうかもね」と言うようにしていた。実際、史学科が就活で有利に働いたという話はあまり聞かない。

 私は大学卒業後、紆余曲折を経て歴史とは直接関係のない福祉系の職業についた。そこで歴史の知識の引き出しは、意外なほど会話に役立つことがわかった。名前や習慣、言葉の由来に、古い時代のマニアックなあれこれが関与していることは、珍しくない。会話のきっかけは、身近なところに落ちている。そういう意味では、歴史は就活には関係なくても、その先の仕事人生には大きく関わってくる「教養」と言えるのではないか。

 

 先日都内のカフェで、女子高校生二人が進路について話していた。「Aちゃん史学科なの?就職先なくね?」そう早口で喋る女の子の見ている過去問は、経営学部のものだった。経営学部に入っても……と私は思ったが、いまだに、いや、もしかしたら私の時以上に、史学科志望に対する周囲の目は厳しいのかもしれない。悲しくなり、勢いでこの記事を書いた。大好きな歴史関連の文章は、また別の機会に。

 今はただ、Aちゃんが春から史学科で充実した日々を送れることを、心から祈っている。